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スペシャルインタビュー

トランジション・ネットワークスは、メディアコンバータベンダの最大手として知られている。同社の財務レポートによると、この市場で20%以上のシェアを占め、同社に続く2番手との差は、かなり大きい。 設立は1987年、すでに20年を超える歴史を持つ。 変化する市場環境の中で、ビジネスを成功させるために何をしてきたのか、メディアコンバータはどのように進化してきたのか。Bill Schultz氏に聞いた。

もはやメディアコンバータとは呼ばない

OPTCOM:トランジションのカタログを見ると、メディアコンバータの他にスイッチ製品が目立ちます。Ethernetスイッチベンダへの進化を目指していますか。

Bill Schultz:メディアコンバータが進化してスイッチと同等の機能を実装するようになったことは事実だが、トランジションがスイッチベンダに進化することはない。 単なるEthernetスイッチベンダになるとすれば、これは進化ではなくて退化だ。なぜなら、われわれは単にスイッチングすることにフォーカスしていないからだ。 トランジションのターゲット市場は、ガバメント、サービスプロバイダ、インダストリアル、エンタプライズ、教育、物理セキュリティと幅広い。 いずれの市場でも、エンドポイントからコレクションポイントまでをつなげるという点では同じことをしているが、市場毎に厳しい要求条件がある。これは、単なるスイッチベンダがカバーできるところではない。

OPTCOM:メディアコンバータとは、銅線から光へ、同軸から光へなど、メディアの変換デバイスと認識されていますが、このような概念でトランジションの製品を捉えることも難しい。

Bill Schultz:サービスプロバイダは、もはやトランジションの製品をメディアコンバータ機器とは呼ばない。ネットワークインタフェース機器(NID)と呼んでいる。メディアコンバータはあまりインテリジェントではないからだ。 サービスプロバイダ向けのわれわれの製品では、もはやメディアコンバータという言葉を使わない。

OPTCOM:メディアコンバータは、既設の設備をそのままにして伝送距離を経済的に延ばすだけのデバイスではなくなった。

Bill Schultz:トランジションがスタートしたのは、1987年、インピーダンスマッチングデバイスなどを作っていたが、1996年ごろからメディアコンバータにフォーカスするようになった。 最初は、確かにポイント・ツー・ポイント(P2P)で光ファイバを利用して伝送距離を延ばすだけの機器だった。 距離を延ばすソリューションがメディアコンバータだった。さらに、チャネル数が増えると、マネージメント、壊れた時にどうするかが問題になった。そこでシャーシを作って、マネージメント機能を実装した。 障害が起きた時にそれを検知する「リンク・パススルー」のような機能があると、管理者はピンポイントで問題の把握ができる。市場は、このようなマネージメント機能の重要性を認識するようになった。 1998年に初めて、コンバージョンセンタにマネージメント機能を実装した。 当時、マネージメント機能を実装したのはトランジションだけだった。

OPTCOM:インテリジェント機能を要求するのはサービスプロバイダだけですか。

Bill Schultz:エンタプライズでもSOHOでも、リモートマネージメントを使いたいという顧客には、NIDを販売している。特に、サービスプロバイダでは、障害が発生した時に、それを検知する機能が重要になる。キャリア側から常時監視していて障害発生を検知することができる。 従来のメディアコンバータでは、どこが落ちたかは分からない。ユーザの機器に問題があったのか、ファイバ破断があったのか、局側の装置が悪いのか、分からない。 それを検知できるようになった。製品は、どんどんEthernet化しており、第2世代のシャーシからIEEE.802.3ahのOAM(Operations, Administration, and Management)機能を実装した。 現在、第3世代のシャーシとなり、マネージメント機能が強化され、上位のスイッチ、ルータと管理機能が同一化する方向に動いている。 OAM機能を搭載した製品は、キャリアだけでなく、エンタプライズにも入っていくと見ている。

市場毎の要求条件に応える製品

OPTCOM:市場毎に厳しい要求条件があるということでしたが、これはそれぞれの市場で要求が違うということでしょうか。

Bill Schultz:サービスプロバイダは最も要求が厳しく、SLAs(Service Level Agreements)があり、そこではトラフィックの制御が厳しい。トラフィックをタイプに分けて、あるタイプのトラフィック、例えばビデオまたはボイスには優先順位をつけており、そうしたトラフィックは優先的にプロビジョニングする。 そのための新しい装置としてOAM機能が必要だ。キャリアは、エンドポイントをたくさん持っているが、別のキャリアのネットワークを借りる時、それでもこのボックスでマネージメントをしたいと考える。OAM機能を使うと、途中のキャリアは中で何が起こっているかを見ることはできない。 サービスプロバイダは、益々インテリジェントなボックスを欲しがっている。また、エンタプライズでも、マネージメントの容易さ、アップグレードを要求するところもある。

OPTCOM:製品的には、Ethernetスイッチと同じになりませんか。

Bill Schultz:Ethernetスイッチは、物理的に厳しい環境条件で使うことを前提にしていない。われわれの顧客、インダストリアルのユーザは別の要求を持っており、これは物理的な要求だ。彼らの対象としている環境は寒暖が非常に厳しい。 2005年にリリースしたHT(high temperature) versionは、単なるEthernetスイッチと違い、動作温度帯域が-40℃〜+75℃と広い。最近は、動作温度範囲が広いスイッチングハブを出している。競合ベンダに先行して、このような製品をリリースして、採用されてきた。また、インダストリアルでは、電力線が非常に多くあり、ノイズも大きい。よって、ノイズ耐性が高いことも必要だ。 化学工場ではスパークで爆発が起こるので、ファイバが必要になる。各マーケットの要求に合った製品を出している。Ethernet、マネージメント、環境耐性がコアコンピタンスになる。

OPTCOM:Ethernetスイッチと競合することはないと考えていますか。

Bill Schultz:Ethernetスイッチベンダがトランジションの市場に入ってくることは、非常に難しい。例えば、温度対策、リンク長の問題など、光ソリューションは簡単ではない。温度対策は、単にモジュールの問題ではなく、中に使う部品が違っている。中に使われているコンデンサ、電源の制御など、すべて設計が違う。自分たちの強い市場を作っていくのがトランジションの戦略だ。

OPTCOM:では、競合するはずのメディアコンバータベンダと差が開いているのはどうしてでしょうか。

Bill Schultz:メディアコンバータに関しては、トランジションは新しい機能を業界で一番にリリースしている。マネージメント機能を実装したのも業界で先頭を切った。単にメディアコンバータと言っても、トランジションの製品は日本の周辺の国々で製造される低価格の製品と比べると設計が違う。2、3年使うと壊れるような製品は作らない。 製品は、5年保証で出しているが、10年使い続けているユーザも存在する。  このような強みをもって選んだ市場がキャリア、データセンタ、セキュリティ、インダストリアルなどだ。

データセンタが成長点

OPTCOM:データセンタ向けには、2年ほど前からスイッチベンダ各社がポート数の多い1UのToR(Top of Rack) Ethernetスイッチを相次いで発表していますが、ここでもやはり競合しませんか。

Bill Schultz:データセンタでは、メディアコンバータを分界点(デマケーションポイント)として使うことがポイントになると考えている。データセンタでは、光ファイバをたくさん使っている。分界点を光で分けると電気的に分離され、アイソレーションされる。 データセンタのサーバラックを借りている場合、サーバはユーザのもので、メディアコンバータを分界点として、ネットワーク側をデータセンタ側の管理区域としている。 メディアコンバータのRJ-45の口からユーザのものになる。メディアコンバータはデータセンタの管理区域になる。Ethernetスイッチの場合は、スイッチ自体がデマケーションポイントにはならない。ポートで分けることになるので、スイッチ全体をユーザが管理することはない。

OPTCOM:Ethernetスイッチと同じようにラックに搭載したシャーシタイプでも同じように考えられますか。

Bill Schultz:シャーシタイプのNIDは、ポート毎に分離していて、マルチポートのEthernetスイッチと同じではない。シャーシタイプでもまとめて管理できるが、通信は1個1個が独立している。だから、あるラインは1Gbps、別のポートは100Mbpsのようになっている。 スイッチは、全て同じだが、メディアコンバータのシャーシタイプは、1個1個バラバラのものが集積されている。 しかし、マネージメントソフトウエアは、それらを一元管理できる。 スロットに、各カードが一枚ずつ入っていて、それぞれユーザが違うが、管理は一括でできる。

Bill Schultz:データセンタは、どこでも景気がよい。蓄積されるデータ量は増加の一途をたどっているので、顧客もたくさん増えて、どんどん新しいデータセンタが建設されている。顧客が増えると、どのように管理していくかということが問題になるので、このようなソリューションが注目されるようになっている。日本市場でも同様に伸びている。 産業分野での減速は、データセンタの好調によって救われたというのが昨年の状況だ。 キャリア市場、データセンタは今後も伸びて行くと見ている。

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